アンパンマンの美学

私はアンパンマンが大好き。

ちなみに私はEテレも好きだ。さすがに『おかあさんといっしょ』とか『天才テレビ君』とかは見ないけど『シャキーン』とか『おじゃる丸』は見る。
(この違い分かる人いないだろうな……)
それから絵本も好きで本屋に行ったらよく読むし、カレーはいつも甘口だし、あれもしかして私って幼児趣味が抜けてないんじゃね……?っていう話はまた今度記事にすることにして、今日はそのアンパンマンについて書く。

というのも、アンパンマンは私の理想とするヒーローなのだ。

いや、これは冗談でなく、アンパンマンがかっこいいと本気で思っている。あいつはやる。その理由を少し説明したい。

そのためにはまず、アンパンマンが圧倒的に孤独であることについて言及せねばならない。「アンパンマンは孤独」と聞けば多くの人は「えっ?」と思うだろう。確かに彼は人気者だ。誰からも好かれ、愛されている。しかし、注意深く観察すれば、そこに何か決定的なモノが欠けていることに気付く。
例えばそれは「アンパンマンには生活感がない」といった形で表れている。物語中の彼を思い出してみる。彼は物語で何をしていたか。彼がすることはいつも一つしかない。


徹頭徹尾、正義を実行する。


それだけ。彼はそれ以外何もしない。まずよもやま話すらしない。

ジャムおじさん「今日は○○さんが来て美味しい○○をご馳走してくれるよ」
アンパンマン 「楽しみですね~」

これは『それいけ!アンパンマン』のテンプレだ。彼の口調は穏やかだが、言葉はまるで事務連絡のよう。彼は言われたことにいつも最小限の言葉だけで返答する。当然冗談なんて言わない。

アンパンマン 「じゃあ、それまでパトロールに行ってきますね」
ジャムおじさん「気を付けるんだよ」

まずジャムおじさんに対して敬語で話す。自分の父親に対して敬語で話しているのだ。かと言って仲が悪いわけではなく、二人の間には強い信頼がある。常に程よい微妙な距離感を保っている。これは他のキャラクターについても当てはまる。例えばカバオ君とか、その辺りの街の人がバイキンマンに襲われている場面。例のごとくアンパンチでバイキンマンを吹っ飛ばす。

アンパンマン「大丈夫かい?」
カバオ   「ありがとう!アンパンマン!」
―カバオ走って退場。アンパンマンはそれを笑顔で見送る。

アンパンマンはみんなに慕われているけど、街の人とアンパンマンの関係はあくまで「一般人と警察」の枠の内に留まっているような気がする。一歩踏み込んだ関係がない。これは他のヒーローたちも然り。例えば、カレーパンマンとか、丼ぶりマントリオとか、かつぶしマンとか。いつもなんやかんやした挙句、助け合ってバイキンマンを撃退することになるのだけれど、そんなヒーローたちにさえ、アンパンマンは砕けた姿勢を見せることはない。信頼はある。けど友情はない。あくまで仕事仲間。あるいは同志や戦友。一見すれば彼はただ正義を実行するためだけの機械のようにも見える。彼は自分の感情を表に出すことがないのだ。バイキンマンに怒ったり、街の人を心配することはあるけれど、自我を出すことはない。自我を出す相手がまずいない。信頼できる人、慕ってくれる人は山のようにいるくせに、友達は一人もいない。その意味で、アンパンマンは孤独だ。

こう聞くとアンパンマンは所謂「凄い真面目な人」のように見える。毎日同じ時間に家を出て、同じ時間に帰って来て、文句を言わない代わりに冗談も言わず、妻が心配になるくらいの真面目人……みたいな。

しかし、アンパンマンの場合はこれとも少し違うと私は考えている。そのカギとなるのが、かの有名な『アンパンマンのマーチ』だ。そこにこんな一節がある。


―そうだ!恐れないでみんなのために。
 愛と勇気だけが友だちさ。


そう。もとよりここにはっきりと宣言しているのだ。自分の友達は愛と勇気だけであると。


―今を生きることで熱い心燃える。
 だから君は行くんだ微笑んで。


彼は孤独だ。しかし同時に、彼はそんなものにはびくともしない圧倒的な愛を持っている。そしてそれを臆せず実行する勇気がある。彼は全ての人を愛している。それが故に、全ての人に対し同じ微笑みを向けるのだと思う。それが時にバイキンマンであってもだ。


―そうだ!嬉しいんだ生きる喜び。
 たとえ胸の傷が痛んでも。


彼は決してロボットではない。心を持った一人の人間だ。孤独も感じる。葛藤もする。苦痛もある。それでも弱音を吐かない。絶対的な愛の前に迷いはない。見返りを求めないからだ。他人の愛を期待した愛ではなく、自分から発信するだけの一方的な愛。アンパンマンは、そういう愛に支えられた鋼の心を持っているんだと私は思っている。宮沢賢治の『雨ニモマケズ』と似た精神だろうか。


雨にも負けず風にも負けず

(中略)

欲は無く決して怒らずいつも静かに笑っている。

(中略)

東に病気の子供あれば行って看病してやり
西に疲れた母あれば行ってその稲の朿を負い
南に死にそうな人あれば行って怖がらなくてもいいと言い
北に喧嘩や訴訟があればつまらないからやめろと言い

(中略)

みんなにでくのぼうと呼ばれ
(ちなみに少し脱線するがアンパンマンは劇場版なんかでマスコット的なキャラクターに、変な顔ー、とかよく言われている)

褒められもせず苦にもされず
そういうものに私はなりたい。


なんて堂々たる姿だろう。
自分が相手を好いている、それがあらゆる行動の根底にある。だから自信が持てる。たとえ孤独でも、誹謗中傷されても、へこたれない。