エヴァ旧劇考察 ①インパクトとゼーレの話

この記事の目標をまず掲げておきます。

 

この考察記事の目標は難解奇怪奇妙奇天烈で有名なあ

エヴァンゲリオン旧劇場版

Air/まごころを、君に。』の

完全理解!!です。

 

そのための考察材料はテレビ版と旧劇場版です。新劇は敢えて使いません。当時発表されていたものだけ使います。

特にテレビ版総集編のDEATH(TRUE)²は冒頭に

"これがエヴァンゲリオンの本当の姿です"

とかいうテロップが流れるのでTV版本編より考察材料として信憑性あるってことにしました。ネットの情報も書きますが、眉唾物も多いのでそのときはそうとちゃんと言います。

 

エヴァ考察記事まとめ☟

tomaonarossi.hatenablog.com

 

  目次

 

 

インパクトってなに

 エヴァ旧劇考察はまず、映画タイトルからサードインパクトの意味を考えるところから始めましょう。

 

エヴァンゲリオン劇場版 シト新生

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この未完成で発表された映画はTV版の総集編であるDEATH編と、新作映画の予告編となるREBIRTH編の二部構成になっています。"シト新生"自体が"新生"のダジャレになってるんですね。

(ちなみにその翌年公開された『エヴァンゲリオン劇場版 DEATH(TRUE)²』はこのDEATH編の完全版です。つまりテレビ版総集編ですね。この(TRUE)²は特に深い意味はなくて、2回改正があったよってことです。この辺のいきさつはwikipediaにも詳しく書いてます)

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エヴァアニメーション群はこんな感じ

 ここから分かるのは、アニメ24話は死に向かう話(DEATH)そしてその後の部分("Air/まごころを、君に"対応部分)は死後の新生の話(REBIRTH)だということです。"Air/まごころを、君に"はサードインパクトのお話しですから、このサードインパクトというのも"新生"を意味すると考えていいでしょう。

実際『Air』でゼーレメンバーは「滅びの宿命は新生の喜び」「これは通過儀式なのだ。人類が再生するための」などとサードインパクトのことを表現しています。

 

インパクト=新生の儀式

 

では、サードインパクトで死に、滅亡したものは何か、これは明確に人類です。

テレビ版24話は、人類が緩やかに死に向かっていく話。

劇場版は、人類が滅亡した後、何かが新生する話。

この構造をまず前提として押さえておきます。("死に近づいていく物語"と考えると何だかTV版の見え方が変わってきますね)

 

インパクトをそのように捉えると1つの疑問が生じます。

 

セカンドインパクトサードインパクトが"新生の儀式"だったとするなら、その前には"ファーストインパクト"なるものもあったの?ということです。 

 

次回の考察で述べますがセカンドインパクトは不発インパクトなので何も滅んでませんし、何も新生していません。ではファーストは? これはサードで滅んだ人類の誕生を指していると考えるのが妥当でしょう。

 

 

ファーストインパクトで人間が誕生し、地球を支配した。

その人間がサードインパクトで滅亡し、人間に代わる何かが新生し、新しく地球を支配した。

 

という大きな流れが見えます。

 これが私たち視聴者、エヴァを考察したい人向けのインパクトの説明になります。

 

ちなみにインパクトについてはもう一つ設定があります。

シンジくんたち作中キャラクターの立場で考えてみましょう。シンジくんはなぜセカンドインパクトと聞いて「セカンドって何がセカンドなんだよ……」と思わないのでしょう。それはセカンドインパクトが世間的には隕石の衝突として説明されている」ことから説明できます。

作中人物はみんなセカンドの前に起こった、いわゆる「ファーストインパクト」と呼ぶべき最初の隕石衝突を知っているのです。それが”ジャイアンインパクト"です。これは現実にある言葉で、月が隕石の衝突によって生まれたとする仮説です。このジャイアンインパクト=ファーストインパクトという認識のもとにシンジくんたちはいるのだと思われます。テレビ版7話にちらっと歴史の教科書の映像が出てくるのですが、これはそこに書かれていることなので間違いありません。(2021/1/6 追記)

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エヴァ世界では月が重要なモチーフとしてよく使われるんですよね。ジオフロントは別名"黒き月"ですし、テレビ版のエンディングテーマは"Fly me to the moon"です。後の方の考察で述べますが筆者はゼーレの本拠地が月にあると思っています。月はエヴァ世界では超重要なキーワードですのでこれからしっかり考察していきます。

 

まとめるとセカンドインパクトには2つの意味があることが分かります。

1つは「2度目の新生の儀式」という本当の意味。(ゼーレの使う意味)

もう1つは「2度目の隕石衝突」という表向きの意味。(世間的な理解)

 

ネットなんかだとファーストインパクトで地球に隕石が落ちてきて、月ができて、その隕石にいたアダムとリリスが使途と人間を生み出した……みたいな説をときどき見かけます。これは実は漫画版がソースになっている解釈で、テレビ版の世界観とは必ずしも一致しません。ですが面白い解釈ではあります。以下のようなセリフがこの説を支持しそうです。

 

ミサト「私たち人間はね、アダムと同じリリスと呼ばれる生命体の源から生まれた18番目の使途なのよ」(Air)

 

冬月「(ジオフロントは)リリスの卵、黒き月」(まごころ、君に)

 

 

ヒトを生んだリリスが"黒き月"から生まれたとすれば、その月を生んだ隕石衝突のときにリリスが地球にやってきたと考えるのも不自然はありません……。

アダムやリリスはどこからやってきたのか?という問題は今はあまり深く触れませんが、この考察を最後まで読んでいただければ最終的にその謎も解けます(多分)

 

秘密結社ゼーレのモチーフ

これらの事情を知っていたのがゼーレという組織です。ゼーレは劇中黒いモノリス(石板)の形で登場するあの黒幕っぽい組織ですね。(ちなみにこのモノリスは映画『2001年宇宙への旅』に登場するものが元ネタになります。劇中では進化・未知・知性辺りを象徴するモチーフとして使われていました)

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2001年宇宙の旅』劇中のモノリス。太古の昔、人類の祖先はこのモノリスに触れたことで知性を身に付け、ヒトに進化した……。この映画めっちゃ不気味

アニメ初期のゼーレはモノリスではなく、実際に人として描かれていましたね。このゼーレ、すごく弱そうで自分は好きです笑。

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初期ゼーレ(弱そう)

 

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後期ゼーレはモノリスとして登場

 ゼーレはドイツ語で魂を表す単語です。この人たちは"人類補完計画"という人類の魂を統合して完全な生命へと進化させようとする計画を推し進めています。そこだけ見ると"魂(を意味するゼーレ)"が"進化(を表すモノリス)"で現われるというのはピッタリの演出ですよね。イキです。人類補完計画についてはまた別の機会で詳しく考察します。こんな風にモチーフで遊ぶっていうのはエヴァ作中で結構あります。

 

ネット上だとゼーレは中世のとあるキリスト教の秘密結社が起源だ、という意見をよく見かけます。これもかなり眉唾ですが、作中の重要なモチーフにキリスト教的な名前が付けられていることを見れば、なるほどと思うところもあります。アダムとかエヴァとか聖書に出てくる単語がよく作中に出てくるのは、それを名付けた人たち(ゼーレ)が元々キリスト教徒だから、というわけです。

 

このゼーレは社会を裏で支配する秘密組織として出てきますが、彼らがこの世界の仕組みを知っているのは”裏死海文書”という世界の仕組みについて書かれたものを持っているからです。裏死海文書自体がどういうものなのか描写されたことはありませんが、ともかくゼーレは近い将来、人類が滅亡する(インパクトが起こる)ことを知っています。それは困る!ということでネルフエヴァを作って破滅を逃れようとするわけです。その方法が"人類補完計画"という奇妙なものになってしまったせいでゼーレは後々ゲンドウらと敵対することになってしまうのですが。

 

【2020/7/21 追記】

死海文書の正体

この「裏死海文書」なんですが、文書っていうくらいなのでアダムとかリリスについて書かれたなんか聖書的な文書をイメージしがちじゃないですか? ですが、筆者が思うにこれはそういう"文書"ではないと思います。もしそうだとするとアダムやリリスをさらに俯瞰して見ることができる下図のようないわゆる神様がこの世界に存在することになります。

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死海文書を書いた神様(そんなものいなぁぁぁぃ!!!)

 エヴァンゲリオンの作中に"神"という単語は確かによくでてきます。しかしそれはいわゆる神様として存在するものではなく、あくまで"世界を作り変えることができる力"ぐらいの観念的な意味合いです。別に神様が実際いるわけではないのです。そういう存在がいてしまうとむしろエヴァの世界観は壊れてしまいます。

 だとすると裏死海文書の正体は一体何か。筆者はアダムやリリスの存在を科学的に裏付けるものだと思っています。例えば、地層の中の火山灰が積もっている層を調べることで大昔に大噴火があったことを推測できるように。何かしらアダムやリリスと言った超生命体がかつて地球に存在していたということを示す科学的物証。かつてリリスからヒトが誕生したこと(=ファーストインパクト)を裏付ける科学的物証。近いうちヒトの絶滅を導くインパクトがまた起こるということを証明する科学的物証。そういう類のものをまとめてゼーレは"裏死海文書"と便宜的に呼んでいるのだと筆者は思います。あるいは、そういう科学的物証を解析することで得られた世界の成り立ちと人の起源、そして人類を待つ破滅的な未来について報告する一本の論文の名前が"裏死海文書"だと考えてもいいかもしれません。(こっちの方がリアルですかね?) 

 そしてもう一歩踏み込むなら、その"科学的物証"は恐らく死海の環境そのものなんだと筆者は考えます。テレビ版12話でゲンドウと冬月がセカンドインパクト後の南極を訪れた際このようなことを言っています。

冬月「いかなる生命の存在も許さない死の世界、南極」

ゲンドウ「だが我々人類はここに立っている。生物として生きたままだ」

(中略)

冬月「(南極を指して)まさに死海そのものだよ

ゲンドウ「だが、原罪のけがれなき浄化された世界だ」

 

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南極(テレビ版12話)

セカンドインパクト後、南極は科学の力で守られなければ生命が存在できない土地になってしまった。

それは死海の環境と同じ状態である。

 

って言ってます。つまり死海そのものが生命の起源やアダム、リリスの秘密に迫る重要なカギだったということではないでしょうか。(なぜ死海がそんな特殊な環境になっているのかは後の考察で)

 

【2020/8/1】

2001年宇宙の旅』とエヴァの結末

 ゼーレモノリスの元ネタとなった映画『2001年宇宙の旅』ですが、あらすじは大体こんな感じです。

(ネタバレ注意!!)

舞台は、科学が進歩した近未来(といっても映画中ではそれは2001年ということになっているので今から考えれば最早近"未来"とは言えないのですが)。人類は月に黒い謎の石板(モノリス)が埋まっているのを発見します。未知の物質でできており、明らかに人工的な形状をしているモノリス一体誰がモノリスを作ったのか?いつから、なんの目的でそこにモノリスがあるのか? 謎が深まります。すると突然、モノリスが太陽の光を浴び、木星に向かって強力な電波を発し始めた!!!! これは何かのメッセージか? それとも……。ということで主人公たちはこの謎を解明するため、木星に向かって出発します。道中AIの暴走とか紆余曲折あった末、木星にたどり着いた主人公。彼はそこで巨大なモノリスが宙に浮かんでいるのを発見します。すると主人公は光の渦に飲み込まれ、スターチャイルドと呼ばれる新人類へと進化したのでした……。

やばいですね。

はい。やばい話なんですよ。でもこの映画はその強烈な映像表現のせいもあり、後世のSF作品群に莫大な影響を残したと言われています。エヴァも明らかにその影響を受けたものの一つです。人類が滅亡し、新しい生命が誕生するサードインパクトなんてのは世界観がまんま同じでしょう。この観点から言えばエヴァというのは究極的には「ヒトはどこへ行くのか、進化の果てに待っているのは一体何なのか」という話だとも言えるんですね。

ちなみに進化と新生命をテーマにしたアニメや漫画は他にも、富野由悠季の『伝説巨神イデオン』や鬼頭莫宏の『なるたる』、しりあがり寿の『そして、カナタへ』などを筆者は知っています。どれもパンチがあって面白いので興味のある方は読んでみてはいかがでしょうか。

 

☟続きのお話し

tomaonarossi.hatenablog.com

 

☟面白いから読んでほしいお話し

tomaonarossi.hatenablog.com