エヴァ旧劇考察"まご君"編①「サードインパクト概論」
ついにエヴァ考察"まご君"編に突入です。
今回のテーマは要するに『まごころを、君に』では何が起こっていたの?です。
この考察記事はこれまで「このシーンが~」とか「このセリフが~」とかこっっっっっまかいことばっか書いてきました。しかし、エヴァ旧劇考察"まご君"編第1弾となる今回はいつもとは違います。細かいシーンはいったん飛ばして、映画全体をおおざっぱに見ながらお話を進めていきましょう。(結論ありきで進む場所もありますが、別稿でまた解説しますのでいったんお許しください)
ちなみに、このサードインパクト、一言で言うなら色んな人の思惑が交錯した結果、イレギュラーなことが起こりまくったというのが筆者の解釈です(1回しかないのにイレギュラーもクソもないだろうという感じですが……)。
前回の記事☟
目次
ゼーレのサードインパクト
さて、サードインパクトに際してまず動き出したのはゼーレです。彼らは戦略自衛隊とエヴァ量産型を派遣してネルフを制圧、邪魔者となるかもしれない弐号機を破壊しました前回記事参照。
そして初号機に槍を刺したり、なんか高いところに初号機を引っ張って行ったり(下図)することでサードインパクトの準備を始めます(この辺の細かい意味は後の記事で)。量産型はゼーレが派遣したものなのでこの量産型の挙動は当然ゼーレの意思を反映したものです。
こういう量産型の挙動を見て冬月先生はこう言います。
冬月「ゼーレめ、初号機を依り代とするつもりか」
どうやら
ゼーレは初号機を使って自分たちの思うサードインパクトを進めている
ようです。しかし結論から言うとゼーレの思う通りのサードインパクトは起こりませんでした。シンジくんがいたからです。戦略自衛隊(戦自)がネルフに侵攻したとき、戦自はシンジくんを殺そうとしていたことを思い出してください。ゼーレの計画において必要なのは初号機だけであって、パイロットはむしろその計画遂行の障害だということが分かります。
劇中でゼーレメンバーはどや顔でこんなことを言っています。
まるでパイロットがいることも計画のうちだったみたいな言い草です。でもホントはシンジくんにそこにいてほしくなかったのがゼーレの本音なのです。
そりゃそうです、どこの馬の骨とも知れないただの中学生に大事なサードインパクトの行く末を少しでも握らせるなんてゼーレの望みではあるはずがありません。
実際、サードインパクトの発動にシンジくんは必要ではありませんでした。劇中、シンジくんが初号機を全く操縦していない(できていない)ことを見れば明らかです。シンジくんの意思と関係なく初号機は動き出し、動き出した初号機はなぜか既に実質暴走状態で、あとは戦うこともできずに量産型のなすがまま、それがシンジくんと初号機の状況でした。
この点から言えばゼーレの計画がくじかれたのは一重にミサトさんのおかげです。絶体絶命のシンジくんを戦自から救い、無理矢理にでも初号機の元に送り届けたミサトさんの行動は作中一のスーパーファインプレイだと思います。
ここでじゃあ「なんで初号機は勝手にゼーレの思うがままに動いてるの?」ということですが、これは詳しくは後の考察に回します。が、初号機が最初に動き出した場面(=立ち往生していたシンジくんを操縦席に導いた場面)に限って言えば「ユイさんの意思」と言っていいでしょう。
初号機がパイロット無しで勝手に動くシーンは作中2回あります。1度目はテレビ版1話
これは息子を守ろうとするユイさんの行動と考えていいと思います。前の記事で述べたように、初号機はエヴァ本体の魂に加えて、ユイさんの魂がコアに取り込まれている特別なエヴァです。これはデフォルメの状態で既にパイロットが搭載されているようなものです。
初号機が勝手に動いた2度目のシーンはまご君のここ☟
ここもどう考えてもユイさんの行動でしょう。サードインパクトが起こる前にシンジくんを乗せることで、未来の行く末を息子に託したのです。こんなことをするのはユイさん以外考えられません。これはゼーレの思惑ではありませんしね。そう考えるとここは唯一ユイさんがゼーレに反抗したシーンといった見方もできるでしょう。
ここで「いや初号機が勝手に動くシーンって他にもいっぱいあるでしょ?」って思った人もいると思います。初号機が何度も見せる暴走シーンです。ですが暴走はユイさんの行動ではありません。零号機暴走事故を思い出してください。零号機にはエヴァ本体の魂1つしかありません。パイロットの意思と関係なく、そのエヴァ本体の魂に機体を乗っ取られた状態が暴走です。だからあんなに暴走状態のエヴァは理性を失った野性的な感じになるんでしょうね。筆者が思うに"エヴァ本体の魂"っていうのは誰かヒトから抜き取ったようなものではなく、赤ん坊に元から魂があるように、初めからエヴァのものとしてある魂なんだと思います。だからユイさんがエヴァを動かすときは理性的で目的があるのに対し、暴走するときはヒトらしくないあんな野性的な感じになるんじゃないでしょうか。(エヴァの魂については旧劇考察Air編③参照)
ゲンドウのサードインパクト
しかし動いているのはゼーレだけではありません。ゲンドウも何やら動き出します。旧劇考察④でゲンドウはゼーレに対抗するする切り札としてレイを用意していると述べました。ゲンドウはレイとそして右手に移植したアダム(の肉体)を使って自分なりのサードインパクトを始めようとします。
ここでゲンドウのセリフを振り返りましょう。
ゲンドウ「アダムはすでに私と共にある。ユイと再び会うにはこれしかない。アダムとリリス、禁じられた融合だけだ。(中略) 始めるぞ、レイ。A.T.フィールドを、心の壁を解き放て。欠けた心の補完、不要な体を捨て、全ての魂を今、1つに。そして、ユイの元へ行こう」
ゲンドウはアダムとリリスの融合によってサードインパクトを起こし、ユイの元へ行こうとしているようです。
結論から言うとアダムとリリスは融合したものの、ゲンドウの思い通りのことは起こりませんでした。レイに拒絶されちゃったからです。
でもアダムとリリスの融合は果たされています。本来のサードインパクトは「アダムと使途が融合することでヒトから使途への世代交代を起こす」というものでしたが、ヒトがそれを阻止しました(旧劇考察②)。
じゃあアダムとリリスが融合すると何が起こるんでしょうか? それを考えるためにここではアダムとリリスの関係について少し振り返りましょう。
ネット上ではよく、「アダムとリリスは地球の覇権を巡って争いあっている存在だ」という意見を見かけます。筆者はこの言い方はかなり語弊があると思っています。DEATH(TRUE)²のこのシーンを見てください。
レイが死ぬときそこにカヲルくんがいるというのはレイの死をカヲルくんが導いているということを意味します(旧劇考察⑤参照)。
ヒトはリリスから生まれたから、ヒトの死はリリスによって導かれます。
同じ理屈で言えば、レイ(リリス)の死をカヲルくん(アダム)が導くということは、リリスはアダムから生まれたということでしょうか? そんなことはありません。
カヲルくんが死んだときを思い出してください。
カヲルくんの最期にレイが現れたというのは偶然やレイの気まぐれではありません。ここでレイが来ないと設定が破綻するという必然のもとレイは登場しているのです。ここから言えるのはカヲルくんの死はレイが導いているということです。
つまり、アダムとリリスはお互いに死を導きあう存在であり、対立する存在というよりはむしろ循環する2つで1つの存在だということです。
なのでサードインパクトでヒトから使途へ世代交代するというのも、アダムとリリスの闘争の結果というよりは、単純にそういう自然の摂理なんだろうと思います。ヒトがそのルールを変に捻じ曲げてしまったわけですが。
さて、問題はこの循環する2つの存在が融合することで何が起こるのか、ということです。これがこの記事の結論になります。
サードインパクトでは生きているヒトの魂と死んだヒトの魂がすべて集められ、新たな肉体をもった新しい生命が新生した。
単純に今生きているヒトだけが生き残るわけではありません。生と死が交わり、アダムとリリス両方を産みの親に持つ新生命が誕生した、というのがポイントです。
ゲンドウがアダムとリリスの融合にこだわったのもここに理由があります。ユイさんはエヴァの中に取り込まれた結果、たとえエヴァ本体が死んでも永遠に死なない特別な存在になりました。そこに今生きているゲンドウが行くためにはやっぱり生と死をつなげるこのアダムとリリスの融合が必要不可欠だったんだと思います(詳しくは後述)。
ヒトの絶滅とその行く末
さて、サードインパクトで起こったことを理解するにあたってまず確認しておかないといけないのが魂の描写です。まご君ではこの赤い点がヒトの魂です。
根拠として分かりやすいのがキール議長の最期で、キール議長の身体が溶けて崩れるのと同時に赤い魂が飛んでいくのがよく見れば確認できます。
悲鳴と共に地球表面が赤く染まり、大量の赤い魂が回収されていく下のシーンもこれを踏まえれば人類がまさに絶滅してるところなんだなというのが分かります。
そして注目してほしいのはこの魂の行き先です。
魂の行く手は二手に分かれていますね。
そしてこの直後、初号機はリリスの中に入ります。そこでシンジくんはある光景を目撃します。
たくさんのヒトが泳いで奥の白い球体に向かってますね。この泳いでる人たちはリリスの中に回収されたヒト(の魂)でしょう。
回収された魂のうち半分は黒き月に入っていきました。
そしてもう半分の魂はリリスの中に入り白い球体に向かっていきます。
この白い球体は何でしょうか。対応的に"白き月"以外に考えられません。
ここで"黒き月""白き月"について軽く補足しておきます。ヒントになるのがこのセリフです。
冬月「生命の源たるリリスの卵、"黒き月"」(まご君)
このセリフからリリスが生まれた場所が黒き月(=ジオフロント)、対応からアダムが生まれた場所を白き月と呼んでいます。
このサードインパクトは先も述べたようにアダムとリリスが融合して発動しました。だから魂が黒き月だけに回収されるというのはむしろ不自然な話で、白き月の方にも半分回収されるというのは何も驚くことではありません。
こうして全ての魂が回収される一方、シンジくんには一つの問いかけがなされます。「何を願うの?」と。全ての魂は回収されます。そのあとは新しい肉体を得て新生するだけです。ここではつまり「あなたはどういう肉体で生まれ変わりたいですか?」と尋ねられているわけです。
最初に述べたようにこのサードインパクトはゼーレの思惑によって初号機を中心に展開していきます。しかしミサトさんの尽力によってシンジくんが初号機に搭乗してしまったため、この一番大事なヒトのあり方を決めるところはシンジくんにゆだねられる形になってしまったんですね。
シンジくんからしてみれば、勝手に巻き込まれてそんな滅茶苦茶責任あること押し付けられて、迷惑もいいところだったと思うのですが……笑
こうしてシンジくんは色々考えて、紆余曲折あった結果、最終的な結論がこちら。
「他人なんてもういらない」「みんな死んじゃえ」
それがシンジくんの結論でした。
アダムとリリスはその思いに応える形で新しいヒトの肉体を作り始めます。
新生人類
こうして新しい人類が誕生しました。新生したシンジくんから見た世界がこちら
レイはこの世界をこう説明します。
レイ「ここはLCLの海。生命の源の海の中。A.T.フィールドを失った自分の形を失った世界。どこからが自分でどこからが他人か分からない曖昧な世界。どこまでも自分でどこにも自分がいなくなっている脆弱な世界」
シンジ「ぼくは死んだの?」
レイ「いいえ、全てが一つになっているだけ。これがあなたの望んだ世界そのものよ」
他人を拒絶したシンジくんに与えられた世界は、他人がいない、その代わり自分もどこにもいない、そういう世界だったのです。
ここで、この新しい世界をよく見てください。
上下に赤い水面、見下ろすと地球、見上げると月、そして地平線の彼方に黒き月と右手にあるのは対応的に白き月でしょう。
この状況とぴったり合致するものが劇中1つだけ出てきているんです。
それが以下のシーンでリリスの首から迸る血の柱です。
つまり
リリスの首からブシャーッと出る血、これが生まれ変わった新しい人類の身体です!!
マジかよwwと思ったそこのあなた、でもよく見てくださいよ。
シンジくんがもしこのほとばしる血の柱に新生したとしたら、どんな景色が見えると思いますか? 上下を赤い水面で囲まれ、見下ろすと地球、見上げると月、地平線の彼方(=血の流れの源)に黒き月、白き月が見えるはずです。
それにシンジくんが新しい世界(L.C.L.の海)にやってくるのは劇中リリスの首から血が噴き出すこのシーンの直後なんです。だからこう考えると時間の経過にピッタリ一致します。
トンデモ考察ではあると思いますが、結構気に入っています。あとこう考えるとホントに映画見やすくなるので機会があればぜひそういう視点で映画見てみてほしいと思います。
ブッダは母親の右わきから生まれたって逸話がありますよね。テンションはそんな感じでしょうか。
サードインパクトで起こったことを大まかにまとめるとこうです。
①ゼーレによって初号機中心にサードインパクトが勃発
②ゲンドウによってアダムとリリスが融合、死者を含めた全人類の魂が白き月と黒き月に回収される
③シンジくんが「他人なんていらない」と願ったため"他人も自分も無い単一個体"として人類が新生することが決定し、リリスの首から新生する。
さて、こうして新生した人類ですが、いざ生まれ変わってみるとシンジくんはあんまり気に入らなくて……?
という話はまたおいおいしていきましょう。
今回のお話しはここまで。
次回以降はこの記事をもう少し深堀しつつ、細かい演出についてじっくり見ていきます。
*続きのお話し☟
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